“舌のポジション”って知っていますか?
日常生活の中でお口の中の舌の位置を意識したことがありますか?
舌の安静位は、舌尖が上顎切歯の舌側面の後方に位置付けられ、口蓋前方部に軽く触れていて、舌背は口蓋に近く平行なのに対して、舌後方部はそのほとんどが軟口蓋と接している状態です。
しかしそれに対して舌全体が下がってきている状態である「低位舌」である人が多くいます。低位舌は様々な原因により、口呼吸の原因になったり、反対に口呼吸を引き起こしたり、また異常嚥下癖が引き起こされ、歯並びや顔つきの形成にも影響が出てきます。
そして舌の位置が低いということは、単に舌のポジションの問題だけでなく、舌骨の位置が低くなっており、舌という巨大な筋肉全体が喉元に沈下している状態ということです。
これにより、喉が2重顎になっていたり、顎のラインが垂れ下がったりします。
また、舌骨が低位であるということで、舌根沈下を起こし気道が狭くなります。嚥下の際には喉頭が持ち上がらないので、気道が喉頭蓋で閉じず、むせやすくなります。根本的に舌が持ち上がりにくくなり、正常な嚥下がしにくくなります。
他にも舌低位の原因として、舌小帯短縮症や口呼吸などがあげられますが、舌骨が何らの原因で下がることで低位舌になるとも言えますし、舌が下がる、舌が口蓋に張り付いていない、弛緩してしまうことで舌骨も下がってしまうとも言えます。
そしてこの舌低位のような「口腔習癖」がお子さんの頭蓋顔面の成長発育期に存在していると、正常な顎の発育、顔面の発育が促されず、「サ・タ・ナ・ラ行」が発音しにくくなり、いわゆる舌足らずな話し方になってしまう原因になったり、歯並びの乱れの原因にもなるため、顎が引っ込み出っ歯になったり、顎自体が小さくなったりするなど顎の成長不全により、顔つきの形成にも影響が出てしまう可能性があります。その他にも、食べ物をこぼす、くちゃくちゃと音を出す、食べるのが遅いなどの傾向が出てくることもあります。
当院では、その頭蓋顔面の成長発育のピークである5~7歳のお子さんに対して、鼻呼吸、上顎につけた正しい舌の位置、正しい飲み込み方を子どもに教え、顎が本来の大きさまで十分に発達するよう導く、「MRC矯正治療」を行っています。悪い歯並びの根本的原因に働きかけることで、成長期にある子供たちの、頭蓋顎顔面の正常な発育を目的とした早期予防矯正治療です。
もし自分の舌の位置、お子さんのお口周りの悪い癖で気になることがあれば、ぜひ定期健診で相談してみてください。また定期的に歯並び勉強会を開催しています。そこでもより詳しく口腔習癖についてお話ししていますので、ぜひ参加してください。
お電話でもご予約受け付けておりますし、Googleフォームでもお申込できます。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSffBVYxIK67Jvc_cCPg7HDQMzPfkVZKZfwUC7O9brvW6MZw9g/viewform
最期まで読んでいただきありがとうございました。
歯周組織再生剤リグロスは魔法のクスリ!?
いいじま歯科クリニック勤務医の大藤です。
今回は歯周組織再生剤リグロスについてのお話をしていこうと思います。
皆さんの中で「歯周病」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。いまや国民病ともされる歯周病ですが、軽度のものも含めると日本でも成人の約8割が歯周病にかかっているとされ、中高年以降の人が歯を失う原因のトップとされています。これまで歯周病で失われた組織は元に戻すことはできないと考えられてきました。
ここで覚えて頂きたいことは、歯周病は歯の病気ではなく、歯の周りの組織(歯周組織)が破壊されていく病気であるということです。
それでは歯周病で破壊される「歯周組織」とは何を指すのでしょうか。「歯周組織」とは口の中で歯を支える組織のことで、歯肉(歯ぐき)、歯根膜、セメント質、歯槽骨の組織からなっています。歯の根っこ部分の表面を硬いセメント質が覆い、その周りを薄くて柔らかい歯根膜が包む。その外側を硬い歯槽骨がガードし、さらにその外側を歯肉が取り囲むという構造になっています。歯周病が進行すると、この歯周組織が破壊されて、最後は歯の根っこの先端付近まで歯槽骨が溶けて歯がぐらぐらするようになり、ついには抜歯せざるを得なくなってしまいます。
歯周病が進行する速度は比較的緩慢で、ほとんどのケースにおいて数年単位で進行します。そのため自覚症状に乏しく、患者さん自身が歯の動揺や歯肉からの出血を自覚したときには、歯槽骨の吸収などの歯周組織の破壊が重度に進行していることが多いです。このことから、歯周病の治療および予防への取り組みは極めて重要な課題といえます。
歯周病の治療は大きく分けて「歯周基本治療」と「歯周外科治療」の2つがあります。歯周基本治療は全ての歯周病患者さんに対して行われる治療であり、歯周病の原因であるプラークや歯石(これらを総称してバイオフィルム)を除去し、また患者さん自身が徹底したプラークコントロールを行うことで歯周病の症状を改善させるために行います。歯周病の症状が比較的軽度の場合は、歯周基本治療で症状は改善し病態の進行は停止します。しかし、歯周病の症状が中等度から重度になると、歯周基本治療では改善しない深い歯周ポケットや複雑な歯槽骨の欠損が残存する可能性が高く、その際に歯周外科治療が適応になることがあります。
歯周外科治療は、歯肉を切開して剥離することで、歯や歯槽骨が明確にみえる状態にし、歯周基本治療では除去しきれない部分のバイオフィルムの除去を行う治療です。この際に歯槽骨の欠損の形態に応じて、歯周組織再生材料を併用することで、歯周組織を再生させる方法が歯周組織再生療法です。
今回のお話のテーマとなる歯周組織再生剤リグロスは、歯周組織再生療法に用いられる歯周組織再生材料の一つです。
歯周組織再生療法に使用されるリグロスは、医科分野でやけどなどで失った皮膚の再生に使用されている薬剤の濃度を歯科用に変え、歯を支える歯周組織を再生するための薬剤として誕生しました。リグロスの主成分は「b-FGF(ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子)」というタンパク質です。この「b-FGF」が歯周組織欠損部の未分化間葉系細胞、歯根膜由来細胞に対して増殖促進作用及び血管新生促進作用を示し、これらの作用により増殖した細胞は骨芽細胞、セメント芽細胞へと分化し、歯槽骨、セメント質及び歯根膜の新生や結合組織性付着の再構築により歯周組織の再生が促されます。このリグロスは、歯槽骨の増加等、歯周組織再生に対する有効性及び安全性が確認され、2016年9月には厚生労働省の承認が得られ、「保険適用」を受けました。
歯周組織再生療法に使える薬剤には、リグロスの他にも「エムドゲイン」というものが存在します。しかしエムドゲインを用いた治療には、健康保険を使うことができないため、自費治療になります。保険治療で使えるリグロスが誕生したことで、より多くの患者さんが少ない経済的負担で歯周組織再生療法を受けることが可能となりました。
では次に、リグロスの適応症と禁忌症に付いて話します。ここまでの話を聞くと、リグロスは歯周病治療において歯周組織を再生させる夢のような薬剤だと思われる方が多いと思いますが、全ての患者さんにとって有効というわけではなく適応症が存在します。適応症としては、①歯周基本治療が終了している方(口腔内の清掃状態が良いことが大前提) ②特定箇所の顎の骨が縦方向に深く破壊されている方(専門的な言い方だと深い垂直性骨欠損を認める場合) ③喫煙していない方 になります。また、禁忌症としては 口腔内に悪性腫瘍(がん)のある方、またはその既往歴のある方です。リグロスは組織再生作用が強いため、正常な細胞と同時にがん細胞も活性化されてしまう可能性があるからです。
次に術式について話します。歯周基本治療で治らなかった深い歯周ポケットおよび垂直性骨欠損が残存した部位に対して、フラップ手術でプラークや歯石などを取り除いた後に歯槽骨の欠損部にリグロスを塗布し、歯を支えている歯周組織の再生を促します。
歯周組織再生療法を成功させるためにはまず適応症をしっかりと見極めることが大事ですが、それ以外にも大切になってくるのは「患者さんのご協力」です。患者さんには歯とお口のセルフケアをしっかりと行って頂く必要があります。歯ブラシでの清掃はもちろん、歯間ブラシ、デンタルフロスを使用したプラークコントロールなどもきちんとして頂くことが、治療を失敗させないために不可欠な条件です。
当院でも2023年7月からリグロスを導入し、歯周組織再生療法を患者さんにご提供する準備を整えています。
今後、当院でも歯周組織再生療法を取り入れた歯周病治療が増えてくると思います。上述した通り、全ての方に適応する治療法ではありませんが、リグロスを使用した歯周病治療は、重度の歯周病患者さんにとって歯を抜かずに治療できる画期的な治療法です。まずはお気軽にご相談下さい。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
むし歯の予防・シーラント
むし歯の予防ときくと、何を思い浮かべるでしょうか?
歯磨き、砂糖の摂取を減らす・なくす、フッ素のうがいやフッ素塗布、いろいろと浮かぶと思います。そのひとつに「シーラント」があります。
当院では主に定期健診で行われます。
虫歯の好発部位にシーラント材を填塞することで食渣やプラークなどの原因となるものから遮断して虫歯をつくることを防ぎます。ただ口腔内の環境と遮断を行う他に、材料内にフッ化物(フッ素)などを添加し、フッ素による歯質の強化、酸緩衝能の発現などからむし歯の活動性の低下効果が得られます。
好発部位には萌出直後の永久歯臼歯部の小窩裂溝、乳臼歯の小窩裂溝、下顎大臼歯の頬面溝、前歯部の盲孔があげられます。特に萌出途中の歯は虫歯への抵抗力が弱く、発生・進行しやすくなっています。
↓好発部位➀永久歯臼歯部の小窩裂溝と➁下顎大臼歯の頬面溝
また、大臼歯の小窩裂溝は乳歯とくらべて溝の深さが深い、かつ形も複雑なため、食渣が溝の中にたまりやすいです。
↓下図のように噛み合わせの部分の溝に沿って黒く変色していると、虫歯になっている可能性があります。
虫歯になっているとシーラントよりも治療になりますので、適応とはなりません。ですが、溝が黒くなっていても着色しているだけであったり、虫歯の一歩手前で削って治療する必要がないこともあります。残念ながらその鑑別は目視ではできません。歯医者でレントゲンを撮ったり、器具で触診することで鑑別が可能です。また、溝の深くに汚れが入り込んでしまった場合ご家庭の歯ブラシでは届かないため、専用の器具で溝の中まできれいにしてから、シーラントを行います。
かみあわせの部分に適用するため、萌出がすすんでかみ合うようになるにつれて摩耗、脱離することがまれにあります。そのため、脱離していないか、脱離してさらに虫歯になっていないかも定期健診で確認します。
定期健診では、虫歯の早期発見、早期治療、虫歯の予防が何よりも大切だと思います。
歯医者は虫歯の治療をする場所だと思われている方、いまはべつに痛いところもないし虫歯もないから歯医者に行く必要はないと思われている方もいらっしゃるかと思います。
そんな方にこそ一度、歯医者での定期健診をおすすめします。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
歯が痛い!!治療も大切ですが、そうならないための対策も必要です。
いいじま歯科クリニック 副院長の高瀬です。
みなさん、歯が痛くなった経験はありますでしょうか?
歯が痛いと言えば・・・「虫歯」と思いつく方も多いと思います。
もちろん虫歯で歯が痛くなるというのは一般的なことでもあります。
しかし、その他にも歯が痛くなる原因はたくさんあります。
挙げてみましょう!
「歯周病」「はぎしり」「くいしばり」「歯の根の病気」「歯が割れてしまう」・・・さまざまな要素があることが分かります。
歯の治療は一度治療すればその後痛みが絶対に出なくなるものではありません。同じようこともあります。
(例)虫歯の治療をしたのに痛みが出てきてしまう
・・・せっかく痛い思いをして治療したのにまた痛みが出てきてしまうのは嫌ですよね?これは誰にとっても嫌なことになります。
歯科医師は虫歯の治療を行う時は虫歯をすべて取り切って治療をすすめることを原則としています。ですが、虫歯の範囲が広くたとえすべての虫歯を取り去ったとはいえ歯の中にある神経の非常に近い場所まで削って治さなければならないことが多くあります。歯の神経は可能な限り残して治療した方が歯の持ちは良いとされています。
せっかく虫歯を取り切ったとしても神経へのダメージが大きくなっていた場合、後から痛みが出てしまうケースがあるのです。治療後すぐに出るケースもありますが、しばらく時間がたってから出てしまうケースもあります。ですので虫歯の治療をして治ったと思ったのにまた痛みが出ることがあるのです。
歯科医師はさまざまな方法で歯の神経を鎮静させたり、薬剤を使用したりしながら治療にあたります。最大限の努力をしても残念な結果を招いてしまうことがあるのです。また、このような状況になった時に使用できる材料の中で効果的であっても健康保険の適応とならない材料もあります。(自費診療のみで使用できる材料があります)少しでも歯の寿命を長くするためには保険適応外の材料を使って治療を行ってもらうことも効果的です。ただし、このような治療を行った場合、かぶせ物や詰め物についても保険適応となりませんので、治療費の最終的な総額などを良く歯科医師とご相談の上治療を受けられてください。保険適応外の材料を扱っていない歯科医院もありますので、治療に際しては通院されている医院でご確認ください。
このようなことにならないために
・・・歯が痛くなる前に早めの治療や予防をすることをお勧めします。
いいじま歯科クリニックでは早期発見のために定期検診、予防のための様々なプログラムを用意しております。より効果的に予防するためには口の中の環境を知ることが非常に大切です。人によってリスクは異なります。虫歯の菌が多い人もいれば、歯周病の菌が多い人もいます。また日ごろの食いしばりなどの習慣が原因となる場合もあります。歯の痛みの原因はさまざまです。いろんな角度から口の中を診ることで様々な病気の予防につながります。
そのためには「時間」が必要です。しっかりと検査を行い、より細かく調べることでひとり一人の問題点を見つけ出すのです。口の中の健康は体全体の健康に密接に関連しています。あなたの健康のために歯医者に時間をかけてみませんか?あとから治療が増えるなどして時間をたくさんかけるよりも、はじめに時間をかけてその後の時間を有効に使えるほうがより良い生活の質を担保できます。
いいじま歯科クリニックの検査の詳細に関しては、ホームページ(https://iijimadental.com/first/)でもご紹介しています。よろしければそちらもご覧ください。
今あなたのお口、あいていませんか?
「口腔機能発達不全症」という言葉聞いたことはありますか。
この言葉自体は聞きなじみ無いかもしれませんが、「お口ポカン」「指しゃぶり」「歯ぎしり」といった言葉は様々なところで耳にするのではないかと思います。
今これを読んでいるあなたもお口があきっぱなしになっていないでしょうか?お鼻で呼吸できていますか?
上に述べたような「お口の癖」が原因で食べる・話す・呼吸などの機能が十分に発達していない、もしくは正常な機能を獲得できていない状態が「口腔機能発達不全症」という疾患です。
この「口腔機能発達不全症」は2018年4月から保険診療に収載され、それにより保険診療内で機能訓練が必要なすべての子どもたちに機能訓練を進めることができるようになりました。
またその時は15歳未満が対象でしたが、2022年の歯科診療報酬改定の中で18歳未満に適応年齢が拡大されています。
加えて、小学校で虫歯にかかったことのある児童は年々減少してきていますが、口呼吸や歯列不正のある児童は増加傾向にあります。
以上のことから歯科医療の中で口腔機能改善に占める重要性が増してきていることがわかります。
ここで具体的にどのようなことを評価するのかご紹介したいと思います。
口腔機能評価項目は「食べる機能」、「話す機能」、「その他の機能」を評価し、
全部で17項目、原則として「食べる」「話す」のうち2項目以上が当てはまれば口腔機能発達不全症と診断されます。
また「離乳完了前」と「離乳完了後(18ヶ月以降)」に大きく分けられ、それぞれのチェックリストを使用して診断をしていきます。
離乳完了後の評価項目として以下の内容があげられます。
「食べる」機能発達不全として
咀嚼機能① 歯の萌出に遅れがある
②歯列不正がある
③痛みを伴うような虫歯がある
④強く噛み締められない
⑤咀嚼時間が長すぎるまたは短すぎる
⑥偏咀嚼がある
嚥下機能⑦離乳完了後なのに舌の突出が見られる
食行動⑧食事量にムラがある
「話す」機能発達不全として
構音機能⑨カ・サ・タ・ナ・ラ行で発語に障害がある
⑩口唇閉鎖不全がある
⑪口腔習癖がある→吸指癖、舌突出癖、弄舌癖、咬唇 癖、吸唇癖等
⑫舌小帯に異常がある
「その他」の機能発達不全として
栄養⑬極端な身長・体重の異常があるか
⑭口呼吸がある
⑮口蓋扁桃に肥大がある
⑯睡眠時いびきがある
⑰他にも、鼻咽腔閉鎖不全があるか、なかなか飲み込むことができない、食べこぼしが多い、話し方に問題がある等上記以外の問題点の問診
ではなぜこれらの口腔習癖が問題なのでしょうか。
それは口腔習癖があると歯列・咬合などに形態の問題が生じてしまいます。つまり歯列不正につながるということです。
例えば矯正治療を行っても、口腔習癖は後戻りの原因になってしまいます。
そして歯並びだけでなく、口呼吸は口腔内衛生環境が悪くなり、虫歯や歯周病のリスクも高くなることが言われています。
加齢とともに歯の欠損リスクや全身の健康リスクがドミノ式で高まってしまいます。
つまり小さいころからの口腔機能発達不全をできる限り早期に食い止めることが大切です。
唇は閉じて、鼻で呼吸し、舌はスポットポジションに、歯が軽く接触している状態が理想です。
ではどのように口腔習癖を改善していくか、どのようにトレーニングをしていくかは、別の機会にご紹介したいと思います。
これをきっかけに自分の口腔機能に興味をもっていただければと思います。
ぜひスタッフに相談してみてください。
若いからといって安心できない。侵襲性歯周炎とは!?
皆さんの中で「歯周病」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないかと思います。歯周病は、今や国民病ともいわれています。
歯周病にはいくつか種類がありますが、その中に「侵襲性歯周炎」というものがあります。今回はこの侵襲性歯周炎について少しお話しをさせて頂きたいと思います。
侵襲性歯周炎とは主に若い人に多く見られる歯周病です。そのため、以前は若年者に見られる急速進行性の歯周炎を総括して「早期発症型歯周炎」と呼ばれていましたが、1999年にアメリカ歯周病学会(AAP)より新たに「侵襲性歯周炎」という診断名が付けられました。
侵襲性歯周炎には以下の特徴があります。
① 若年者に多く見られる
一般的に歯周病は年齢が高くなればなるほど、リスクが高くなります。年齢が上がるにつれて症状も進行しやすくなります。
しかし侵襲性歯周炎は、10歳~30歳代が多く、日本における侵襲性歯周炎の罹患率は難病センターの平成24年度の報告によると0.05~0.1%とされています。
② 歯周病が急速に進行する
一般的な歯周病は、全身疾患やプラーク(歯垢)の付着量に依存しており、プラーク中の歯周病菌の出す毒素によって緩徐な歯周組織破壊が起こります。
しかし侵襲性歯周炎の場合は、プラークの付着量が少なく、全身的に健康であるにも関らず、急速な歯周組織破壊が起こります。
侵襲性歯周炎は、上顎から下顎まで全体的に症状が現れる広範型と、前歯と6歳臼歯ともよばれる第一大臼歯に症状が限られる限局型の2種類に分類されますが、広範型、限局型どちらの場合も歯槽骨(歯を支えている骨)の吸収が顕著であることが特徴です。
③ 治療が難しい
侵襲性歯周炎はプラークの付着量とは関係なく病状が進行します。プラークや歯石の量は少ないのに歯周ポケットが深く、また歯槽骨の吸収が顕著であるため、一般的な歯周病治療では治療の効果が現れにくく、難治性の傾向を示します。
④ 特異的な歯周病菌が関与
侵襲性歯周炎に関与する細菌のなかに、特異性のある細菌が確認されています。それが、「A.a菌(アグレガチバクター・アクチノミセテムコミタンス菌)」と呼ばれる細菌です。A.a菌は侵襲性歯周炎の患者さんから高く検出され、健康な歯周組織を持つ方からはほとんど検出されません。
⑤ 家族が同じように発症する傾向がある
侵襲性歯周炎は遺伝的要因が関与しており、家族が同じように発症する(家族内集積)傾向があります。
このように、侵襲性歯周炎の発症や病状進行には、特異性のある細菌や遺伝的要因が関与していると考えられていますが、その詳細については未だ不明な点が多く、解明には至っていません。日本歯周病学会でも、日本人の侵襲性歯周炎の病態や治療法を確立していくため、全国の大学病院を中心として日本人の侵襲性歯周炎データベースの構築が積極的に行われています。また、岡山大学病院では医科歯科連携で対応する「侵襲性歯周炎センター」を開設したりと、現在侵襲性歯周炎の病態解析研究が盛んに行われています。
侵襲性歯周炎の治療において一番大切なことは早期発見・早期治療です。
治療方法は、一般的な慢性歯周炎と同じく「プラークコントロール」が主体となりますが、侵襲性歯周炎の場合は少量のプラークが残っているだけでも病状進行のリスクとなるため、抗菌薬を併用したうえで徹底したプラークコントロール(プラークや歯石の除去)や外科的に歯周ポケットを除去する処置、短間隔でのメインテナンスが大切になってきます。
若いから大丈夫と自己判断するのではなく、歯茎が腫れたり出血がある場合は必ず歯科医院で一度検査してもらいましょう。
いいじま歯科クリニックでは、初診の患者さんに対して、お口の状態とレントゲン写真から総合的に判断し、歯周病のリスクが高い方に対しては位相差顕微鏡による細菌検査(プラークを少量採取し、顕微鏡を通して歯周病菌の活動状態を把握する検査)を行うように推奨しています。
以前のブログにも書いてありますが、「歯周内科治療」も積極的に行っています。侵襲性歯周炎にとどまらず、歯周病の進行のリスクが高い方には歯周内科治療をおすすめしています。
歯周内科治療を受けられた場合、顕微鏡による細菌検査とは別に、PCR検査を実施し(コロナの検査とは違います)、より詳細に歯周病菌の種類の同定を行います。
その上で抗菌薬の全身投与を併用したプラークコントロールを行い、お口の中の細菌環境を整えることで歯周組織の状態を改善していく治療です。
歯周内科治療について、詳しくはこちら(https://iijimadental.com/2022/02/)をご覧下さい。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。