矯正治療で歯並びをよくするメリットを皆さんはご存じですか?
みなさん、こんにちは!
いいじま歯科クリニック 勤務医の渡部(わたなべ)です。
本日は「歯の基礎知識」シリーズとして、矯正治療についてお話ししていこうと思います。
先日配信したブログでは「マウスピース矯正の特徴」について詳しくお話しさせていただきました。
【過去投稿 目立ちにくくて快適なマウスピース矯正について】
今回は、ワイヤー矯正やマウスピース矯正といった治療方法の種類にかかわらず、「そもそも、なぜ矯正治療を行うのか?(矯正治療の本当の意義)」という本質的な部分にフォーカスを当てて書いていきたいと思います。
「矯正=見た目をきれいにするもの」と思われている方にこそ、ぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。
1. 矯正治療の「2つの大きな目的」とは?
みなさん、ご自身やご家族が「矯正治療をしたい」と考えたとき、その目的やメリットとして真っ先に思い浮かぶものは何でしょうか?
きっと、多くの方が「ガタガタの歯並びをきれいにして、見た目を良くしたい!」「思いっきり笑顔になりたい!」とお答えになるのではないでしょうか。
もちろん、見た目の美しさ(審美性の向上)は矯正治療の非常に大きな目的の一つです。歯並びが整うことで口元に自信が持ちやすくなり、コンプレックスが解消されることは精神的にも大きなプラスになります。
しかし、歯科医師の立場からぜひ知っておいていただきたい、見過ごされがちなもう一つの重大な目的があります。
それが、「噛み合わせ(機能性)の改善」です。
歯には1本1本「大切な役割」があります
私たちの歯は、親知らずを除くと全部で28本あります。そして、前歯・犬歯・奥歯といった歯の1本1本に、それぞれ異なる重要な役割が与えられています。
- 前歯: 食べ物を噛み切る/発音を助ける/奥歯を横滑りの力から守る
- 犬歯: 噛み合わせの柱となり、横からの強い力を受け止める
- 奥歯: 食べ物を細かくすり潰す/強い咬合力(噛む力)を支える
もし歯並びや噛み合わせが悪いと、これらの役割が適切に果たされなくなってしまいます。その結果、食べ物を効率よく咀嚼(そしゃく)できないだけでなく、「特定の歯だけに、毎日過剰な負担がかかり続ける」という状態に陥ってしまうのです。
人間の噛む力は、想像以上に強力です(自分の体重と同じくらいの力がかかることもあります)。特定の歯に何年・何十年と過度な負担がかかり続けると、歯が割れたり(破折)、歯を支える骨がダメージを受けたりして、最終的にその歯は長持ちしなくなってしまいます。
実は、この「噛み合わせと歯の寿命」の関係を証明する、とても興味深いデータがあります。
2. 80歳で20本残せる?「8020運動」の現状と人生100年時代
ここで一度、みなさんも耳にしたことがあるかもしれない「8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動」についてお話しします。
8020運動とは?
厚生労働省と日本歯科医師会が推進している、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という国民的な健康づくり運動です。
大人の歯は28本ありますが、研究によると「自分の歯が20本以上あれば、固い食べ物でもほぼ何でも美味しく味わって食べられる」ことが分かっています。
「年をとったら歯が抜けるのは当たり前」と思われがちですが、決してそんなことはありません!日頃の適切なケアと良好な環境があれば、80歳になっても20本以上の歯を残すことは十分可能です。
現在の達成率は約50%
現在、日本における8020達成率は約50%と言われています。「半分も達成しているんだ!」と感じるかもしれませんが、裏を返せば「80歳以上の約半数は歯が19本以下になり、食事や会話に何らかの不便を感じている」というのが現実です。
さらに、現代は「人生100年時代」と言われています。80歳を迎えた後も、そこからさらに20年間、自分の歯で食事をして元気に過ごしていかなければなりません。
では、見事に8020を達成された方々の「お口の中」には、一体どのような特徴があるのでしょうか?
3. 【驚きのデータ】8020達成者の8割以上が「理想的な歯並び」だった!
少し話がそれたように感じられたかもしれませんが、ここに矯正治療の真の意義が隠されています。
8020運動を達成された方々の噛み合わせ(咬合)を調査した研究において、非常に驚くべき結果が報告されています。
【データが示す8020達成者の噛み合わせ内訳】
- 正常咬合(理想的な噛み合わせ):84.6%
- 上顎前突(いわゆる出っ歯):15.4%
- 下顎前突(いわゆる受け口):0.0%
- 開咬(噛んでも前歯が閉じない):0.0%
- 過蓋咬合:13.5%
※参考文献:茂木悦子ほか「8020達成者の不正咬合の状況に関する研究」(歯科学報 105(2): 154-162)
ご覧いただいてお分かりの通り、8020を達成した方の実に85%近くが「理想的な噛み合わせ」をしていたのです。
そして何より注目すべきは、下顎前突(受け口)や開咬(かいこう)の方は、達成者の中に「1人もいなかった(0%)」という事実です。
歯並びのタイプ別のリスク
下のイラストをご覧ください。

それぞれの歯並びには、歯の寿命を縮めてしまう以下のようなリスクが潜んでいます。
① 上顎前突(出っ歯)
上の前歯が下の前歯よりも大きく前に突き出ている状態です。前歯同士が適切に噛み合わないため、食べ物をうまく噛み切ることができず、噛む負担の大部分が奥歯に集中してしまいます。また、前歯が唇で守られにくいため転倒などで前歯を破折・打撲しやすいだけでなく、過剰な負荷がかかり続ける奥歯から早期に寿命を迎えてしまうリスクが高い噛み合わせです。
② 下顎前突(受け口)
下の歯が上の歯よりも前に出ている状態です。前歯でうまく噛み切ることができないため、すべての噛む負担が奥歯に集中します。奥歯が過酷な負担に耐えかねて、50代・60代で崩壊してしまうリスクが非常に高い噛み合わせです。
③ 開咬(オープンバイト)
奥歯をしっかり噛み締めても、前歯が噛み合わず隙間が開いてしまう状態です。受け口と同様に前歯が全く機能しないため、食事のたびに奥歯だけに強烈な負担がかかり続けます。
④ 過蓋咬合(ディープバイト)
上の前歯が下の前歯を深く覆い隠してしまう状態です。正面から見ると下の歯がほとんど見えません。過蓋咬合の場合、下の前歯が上の前歯の裏側の歯ぐきに突き刺さるように当たってしまったり、あごの関節(顎関節)に強い負担がかかって顎関節症を引き起こしたりするリスクが高くなります。
4. なぜ「良い噛み合わせ」だと歯が長持ちするのか?
なぜ、理想的な歯並びをしている人は80歳になっても歯がたくさん残っているのでしょうか?
理由はシンプルで、「歯にかかる力のバランス(分散)が完璧だから」です。
正しく噛み合っているお口の中では、食べ物を噛むときにすべての歯が協力し合います。
- まっすぐ噛むときは、根っこが太い奥歯が力を受け止める
- あごを横にずらして咀嚼するときは、前歯や犬歯がガイドとなって奥歯同士が強く擦れ合うのを防ぐ
このように、歯がお互いを守り合う仕組み(相互保護咬合)が完成しているため、1本1本の歯にかかるストレスが最小限に抑えられます。その結果、歯が割れたりグラグラになったりすることなく、何十年も長持ちするのです。
さらに、歯並びが良いとお手入れ(歯みがきやフロス)がしやすくなるため、虫歯や歯周病になりにくいという大きな衛生面のメリットも加わります。
つまり、理想的な噛み合わせは「力学的にも、衛生面的にも、歯を守る最強のバリア」になるのです。
5. まとめ:矯正治療は「将来の自分への最高の投資」
本日は、矯正治療における「噛み合わせ」と「歯の寿命」の関係についてお話しさせていただきました。
「矯正治療=見た目をキレイにするための審美治療」と思われがちですが、本質は「自分の大切な歯を生涯守り抜き、一生美味しくご飯を食べるための予防医療」です。
若いうち、あるいは気付いた早いうちから歯並びや噛み合わせを整えておくことは、将来にわたって医療費や治療のストレスを減らし、健康寿命を延ばすこと(=直結する投資)につながります。
今回ご紹介した歯並びの中で、ご自身やご家族にあてはまりそうなものはありましたか?
- 「最近、特定の奥歯ばかり痛くなる気がする」
- 「前歯で食べ物が噛み切りにくい」
- 「自分の噛み合わせのタイプを知りたい」
些細な疑問や不安でも構いません。当院では患者さん一人ひとりのお口の状態に合わせた丁寧なカウンセリングを行っておりますので、どうぞお気軽にいいじま歯科クリニックまでご相談くださいね!
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【参考文献・データ出典】
- 茂木 悦子, 羽鳥 恵子, 茂木 満, 尾崎 伸次郎, 末石 研二, 高橋 士郎, 小倉 治夫, 黒田 健一, 宮田 隆, 河野 正司
Occlusion in eighty-year-old subjects with all natural teeth. (80歳全有歯者における咬合)
The Bulletin of Tokyo Dental College / 歯科学報 105(2): 154-162
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