「歯を削らない虫歯治療」って本当にできるの?
みなさんこんにちは。いいじま歯科クリニック勤務医の劉です。
今回は、インターネットなどで話題になることのある「歯を削らない虫歯治療」について、できるだけわかりやすく整理してお話しします。
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虫歯治療=削る、はなぜ?

虫歯は、歯の中に入り込んだ細菌が出す酸で歯が溶けていく病気です。進行してしまった部分は、基本的に“病気の部分を取り除いて形を回復する”必要があります。
もちろん、歯はできるだけ削らないほうが良いものです。最近の虫歯治療は「必要最小限だけを削る(歯を守る)」方向へ進んでいます(Minimal Intervention Dentistry:MID という考え方です)。
ただし、「まったく削らずに、進行した虫歯が元どおり治る」かのような表現には注意が必要です。
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よく聞く「ドックベストセメント」とは?

「ドックベストセメント(Doc’s Best Cement / Doc’s Best Copper Cement)」という材料や、それを使った治療法が「削らない虫歯治療」として紹介されることがあります。
材料の主成分としては酸化亜鉛などが挙げられ、銅イオンによる殺菌作用や、歯を硬くする(再石灰化)作用が期待できる、と説明されることがあります。
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日本では“未承認”の材料です
まず大事なポイントとして、ドックベストセメントは日本の薬機法(医薬品医療機器等法)で承認されていない材料だと、日本歯科保存学会が明確に述べています(2025年3月19日公表)。
つまり、日本国内の制度上は、材料として国の承認を受けていない位置づけになります。
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学会の見解(2025年3月19日)
日本歯科保存学会は「ドックベストセメントについての見解(要旨)」の中で、次の点を示しています。
・薬機法で承認されていない
・安全性と有効性について、高いレベルの科学的根拠が示されていない
・学会が推奨する虫歯治療として容認することは難しい
要するに、「現時点では、効果や安全性を十分に裏づけるデータが整っておらず、学会として推奨はできない」という立場です。
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どうしても“削らない”治療を検討している方へ:確認したいこと

もし、ドックベストセメント等の「削らない治療」を提案されたり、検討したりしている場合は、次の点を必ず確認してください。
1) どんな状態の虫歯が対象なのか(初期虫歯なのか、深い虫歯なのか)
2) 治療後に「中がどうなったか」をどう評価するのか(再評価の方法・通院回数)
3) うまくいかなかった場合の対応(追加治療の方針、費用、保証の考え方)
4) 代替案(MIDに基づく一般的な保存的治療、段階的に進める治療など)があるか
治療は“やったら終わり”ではありません。とくに深い虫歯では、痛みがなくても内部で進行していることがあります。納得できる説明があるかどうかがとても重要です。
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結局いちばん大切なのは「予防」と「早期発見」

虫歯は早い段階で見つければ、削る量を最小限にできます。日々の歯みがき・フッ化物(フッ素)・食生活の見直しに加えて、定期的な健診で早期発見につなげましょう。
気になることがあれば、ぜひスタッフまでお気軽にご相談ください。
ではまた次回の記事でお会いしましょう。
















