学際企画主催「QOL向上に貢献!睡眠歯科治療」に参加しました。
皆さんこんにちは。いいじま歯科クリニック勤務医の劉です。
2025年3月2日、東京の田町にて開催された睡眠歯科のセミナーに参加しました。講師は国内外で著名な睡眠歯科専門医の宮地舞先生でした。このブログでは、セミナーで学んだ睡眠歯科の最新知見と、その臨床応用についてご紹介します。
睡眠歯科とは
睡眠歯科とは、睡眠障害やその影響を軽減するために、歯科の専門知識と技術を活用する医療分野です。特に以下のような症状の改善に貢献します:
● 閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)
● いびき
● 歯ぎしり(ブラキシズム)
● その他の睡眠中の口腔・顎関連問題
具体的には、口腔内装置(マウスピース)を使用して気道を確保し、睡眠の質を向上させることで、様々な全身疾患(肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症など)の改善や予防に貢献します。また、一般的な治療法で改善しない「抵抗性高血圧」にも効果が報告されています。
閉塞性睡眠時無呼吸症の仕組み
OSAは、睡眠中に上気道が繰り返し閉塞することによって起こる呼吸障害です。
通常、起きている時は筋肉の緊張により気道(青色部分)が開いています。しかし、睡眠中は筋肉の緊張が低下し、下あごや舌が重力で後方に落ち込むことで気道が狭くなり、最悪の場合は完全に閉塞します。
この閉塞により:
1. 酸素不足が生じる
2. 体が酸素を求めて一時的に覚醒する
3. この覚醒と睡眠の繰り返しにより睡眠の質が低下する
OSA患者の睡眠は、深い睡眠(ノンレム睡眠)が断片化され、十分な休息が得られません。これが日中の眠気や集中力低下、長期的には様々な健康問題につながります。
リスク要因と診断
OSAの主なリスク要因には以下があります:
● 肥満(中等度から重度のOSA患者の約60%)
● 性別(男性に多い)
● 加齢
● 家族歴
● 顔面骨格の特徴(アジア人はモンゴロイド特有の骨格により欧米人よりもリスクが高い場合がある)
● 生活習慣(飲酒、喫煙、特定の薬剤の使用)
診断方法
OSAの診断には主に2種類の検査があります:
- 検査施設外睡眠検査(OCST)
○ 自宅で実施可能
○ 簡便だが得られる情報は限定的
2. 精密睡眠検査
○ 専門施設で実施
○ 詳細なデータ取得が可能
いずれの検査も医師の指示のもとで実施することが前提です。
スクリーニング
歯科医院での初期スクリーニングには以下の方法が効果的です:
◎問診(日中の眠気、疲労感、集中力低下などの症状確認)
◎視診(顔貌、口腔内所見)
◎質問票(STOP-Bangテスト、エプワース眠気尺度など)
◎口腔内評価(Mallampati分類、Friedman分類、Brodsky分類)
医科歯科連携による治療
OSA治療における医科歯科連携の基本的な流れは以下の2パターンです:
パターン1:歯科からの紹介
歯科診療時のスクリーニングでOSAの疑い
↓
医科への紹介
↓
診断後、口腔内装置適応と判断された場合に歯科へ逆紹介
パターン2:医科からの紹介
医科でOSAと診断
↓
口腔内装置の適応と判断
↓
歯科へ紹介
重要ポイント:
1. 診断は必ず医師が行うこと
2. 歯科医師は口腔内装置の作製と管理を担当
3. 治療効果の評価は医師と歯科医師の両方で行う
4. 定期的な情報共有と再評価が必要
生活改善と睡眠衛生
口腔内装置やCPAPなどの医療機器に頼るだけでなく、以下の生活習慣の改善も重要です:
1. 睡眠姿勢:横向きに寝ることで舌根の沈下を防ぐ
2. 枕の調整:適切な高さの枕を使用する
3. 睡眠環境の整備:温度(18〜23℃)、光(暗く)、音(静かに)を調整
4. 就寝前の習慣:カフェインやアルコールを控え、ブルーライトを避ける
5. 規則正しい生活:決まった時間に起床・就寝する
最後に
OSAの患者さんを評価する際に、軽度から中等度の患者さんは、CPAPが適応しませんので放置されることが多く、結局症状が出ているのに治療はできず、全身状態も悪化していくという非常に悲しいことがあります。それに対し、歯科の口腔内装置という、新たな治療方法ができましたので、重度ではない方々も治療を受けられるようになり、多くの方々がこれにより恵まれると考えられます。今後、当院でもこのような治療法に対し、より専門的な知識と治療に対する選択肢を提供できますように、精進していきたいと思います。
これからもよろしくお願いします!